【MEDIA】ブランド契約選手の南雄太選手(横浜FC)と澤村公康氏(GKコーチ/ゴー リースキーム代表)のスペシャル対談が掲載されました。


GKコーチとして20年を超えるキャリアを持ち、日本代表のシュミット・ダニエル選手や大迫敬介選手を指導してきた澤村公康さん。育成年代からトッププロまで、幅広い指導経験を持つGKコーチです。南雄太選手は、プロキャリア24年を迎える大ベテラン。GKというポジションの酸いも甘いも知り尽くす選手です。公私に渡って親交のある二人が「GK」をテーマに対談を行いました。(記事提供:Soccer Junky)


澤村:今回は南選手とGKについての対談ということで、宜しくお願いします。この前、僕のオンラインサロンのZOOMゲストとして登壇してもらった以来ですね。

南:はい。あのときは参加者の方から専門的な質問がたくさん来て、楽しかったです。

澤村:僕の持つ「GK南雄太」の印象は、リーダーシップがあって、ゲームを変える力がある、ゴールキーパーらしさを備えた選手だと思います。試合中はどんなことを心がけていますか?

南:僕が心がけているのはミスをしないことです。自分はビッグセーブをたくさんするタイプではありません。ボールに対する反応が速い方ではないですし、身体能力が高いタイプでもなく、そこがずっとコンプレックスなんです。だからこそポジショニングや考えてプレーすること、相手との駆け引きでその部分を埋めてきました。そこにミスがあると、ビッグセーブをするGKよりも評価が劣ってしまうので、周りからは「安定感がある」と言われるGKにならなければいけないと思いながら、ここまでプレーしてきました。

澤村:今年でプロ生活24年目ですからね。

南:自分としては試合を通してプレーが安定していて、その中で試合の流れを変えられるようなセーブが1、2本あると「今日はいいプレーができたな」と思います。逆に、ビッグセーブがあっても、ポジショニングなどにミスが1つ、2つあると、あまり良いプレーができなかったと感じます。

澤村:身体能力の高さで細かなミスを誤魔化せてしまう選手もいますからね。時代と共に、GKに求められるプレーが変わってきています。今はセービングに加えて、足元の技術も必須になっているけど、現役選手としてその辺りはどのように感じている?

南:現代サッカーを見ていると、身体が大きいか、足元の技術があるかの二者択一になっているので、本当にそれでいいのかなと思うこともあります。そもそもGKの一番の役割はゴールを守ることなので、そこが薄れてきているのではないかって。

澤村:それは僕も感じていて、クラブ関係者から、GKについての照会を受けるときに、真っ先に聞かれるのが「この選手、足元の技術ある?」なんです。それに僕はずっと疑問を感じていて、GKはまずゴールを守る部分、チームを導くリーダーシップが大切なのではないかと思うんですよね。

南:当然、足元の技術も大切なのですが、一番の仕事はゴールを守ること。失点をゼロで抑えることだと思います。

 

 

澤村:トレンドの移り変わりやルール変更によって、求められるGK像も変わります。何より、監督が変わればチーム戦術も変わるので、GKも変化して適応していかなければいけない。そこに対して、ポジティブにチャレンジする勤勉さ、諦めない心などのメンタル面も、GKには必要だと思う。そのあたりの考え方はどうしている?

南:三十歳過ぎたあたりから、人の話を聞くようになったんです。それまでは、周りの言うことはあまり関係なく「自分はこう思う」というタイプでした。その頃、柏レイソルで試合に出られなくなり、最初は「監督の好みじゃないのかな」と思っていたのですが、監督が3人変わっても試合に出られなかったんです。そのときに「自分に足りないものがあるから、試合に出られないんだ」と気づいて、周りの意見も聞くようになりました。今思うと、そのときに気がつくことができて良かったです。この年齢(41歳)になっても現役をやれているのは、自分の考え方を良い意味で変えることができたからだと思います。

澤村:どんなふうに考え方を変えたの?

南:何かが足りないから試合に出られないんだと、自分に矢印を向け始めました。当時、レイソルで試合に出ていた菅野(孝憲/現コンサドーレ札幌)から、なにか良い部分を盗んでやろうという発想も最初はなかったんです。俺は俺という感じで。でも試合に出られないので、意地を張っている場合じゃないと思い始めて。そうすると物の見方も変わって、気づくことも増えました。レイソルにいた最後の一年で、上手くなっている実感があったんです。試合には出られなかったので、見せられる場がなかったのですが。その翌年にロアッソ熊本に移籍して、1年目はすごく良いパフォーマンスができました。それまでに取り組んできたことで、向上した部分を試合で出すことができたので、自信にもなりましたね。

澤村:熊本時代の1年目は、全試合に出場していたよね。

南:それもプロになって初めてなんです。

澤村:試合に出られないからといって、腐ってしまう選手もいます。そうはならなかった?

南:最初はそうでした。それまで、試合に出られなかったことがなかったので。その気持ちが、自分の足かせになっていることに気がつくのに、時間がかかりました。矢印が自分に向いていなかったというか、「何で試合に出られないんだ」と外に原因を求めていたので、人の話も入ってきませんでした。それじゃあダメだと思って、徐々に矢印が自分に向いてきて、いろんなものを考えられるようになりましたし、もっと上手くなろうと思えたのは、自分に矢印が向いた時だったと思います。

澤村: 僕はその頃、川崎フロンターレのアカデミーで指導していたんだけど、トップチームに川島永嗣がいて、2番手のGKが相澤貴志(現・セレッソ大阪アカデミーGKコーチ)でした。彼は出場機会がなかったのですが、すごく真面目にトレーニングに取り組んでいて、川島がW杯後に海外移籍した時に試合に出るようになり、すごくいいパフォーマンスをしていました。その姿を見たときに、出番がなくても腐らず真面目に取り組むことを、育成年代の選手たちにより強く伝えなければいけないなと感じたことを覚えています。

 

 

■J1とJ2の違い

澤村:J 1のシュートと J 2のシュートは違う?

南: 違いますね。J2では飛んでこないコースに来て、シュートを決められたこともありました。少しでも隙があると、シュートを決められてしまいます。昨季、J1で戦って「1対0で勝つのって、こんなに大変なんだ」と感じました。J 2の時は相手がミスをしてくれたりと、逃げ切れることもあったのですが、J1は見逃してくれない。だから横浜FCのスタイルとして、ボールを持とうというのは理にかなっていると思うんです。引いて守るだけでは、いつかやられてしまいますから。

澤村:僕もロアッソ熊本で仕事をして、その後にサンフレッチェ広島に行って、J1とJ2を体験したけど、外国人選手を含めた、FWの選手は J1とJ2ではかなり差があると思います。

南:去年は、「J1は違うな」と思いましたね。僕は「シュートに目が慣れる」ことは、GKとしてすごく大切だと思っています。開幕前にキャンプインして、最初の頃はボールが取れない時期が必ずあるんです。なぜかと言うと、目がスピードに慣れていないから。でも、そこから1ヶ月ほどトレーニングをすると、目が慣れてボールが取れるようになっていきます。

澤村:キャンプインしたばかりの頃は、それがストレスになるでしょう?

南:なりますね。普段なら取れるボールが取れなくて、シュートを決められるわけですから。いまは時間が経つにつれて戻るのですが、いつまで経っても戻らなくなったら、現役を辞める時かもしれないですね。

澤村:引退後のキャリアはどう考えているの?

南:キーパーコーチは興味あります。逆に言うと、キーパー以外は教えられる自信がないです。だから、キーパー出身の監督やコーチの方はすごいなと思います。

澤村:プロとしてのキャリア(注・プロ通算675試合出場/2021シーズン開幕前)が豊富なので、良いキーパーコーチになると思いますよ。これだけ試合に出たということは、失点した経験もたくさんあると思います。そのときの心の持って行き方、整え方、割り切り方など、メンタル面も若いGKたちに伝えていってほしいです。「俺にはわかるよ、お前の気持ちが」って、親身になって接してあげて欲しい。

南:自分がもしキーパーコーチになったらこうしようと思うのが、結果を追い求めないことです。ブラジル人のキーパーコーチはみんなそうだったんですけど、試合後に「あのシュートは取れただろう」とか、「シュートを止める」ところばかり言われていました。でも日本人のキーパーコーチは、もっと前のプロセスの部分を大事にするというか、ディフェンスの寄せはどうだったのか、自分の立ち位置はどうだったのかなども含めてアドバイスをしてくれました。

澤村:失点場面を巻き戻していくと、フィールドプレーヤーがもう少しこうしていたら…という場面はよくあるよね。

南:そうなんです。でも、最終的にGKがシュートを止める、止めないの部分だけをクローズアップされるのは、結果論だよなと思うことがあります。ブラジルのコーチは結果がすべての世界で生きてきたと思うんです。ブラジルの多くの選手が、貧しい生活から抜け出すために、結果を出して這い上がっていくしかない。その気持ちは十分わかるのですが、自分の場合は結果だけをクローズアップされても、説得力がないというか、納得しづらいと思いました。

澤村:僕の場合、ベンチで試合を見ながら、監督に「いまのシュート、取れたよな」「なんでいまの場面、前に出られなかった?」と言われることがよくありました。とはいえ、実際にピッチに立ってみると、シュートコースが塞がれていたり、なにか理由があって前に出られなかったりします。「なにか制限がかかっていたのかもしれません」と話はするのですが。ただ、僕もキーパーコーチとしてキャリアが浅い時は、キーパーに向かって「あのシュートは取れただろう」などと言っていたかもしれません。今は、まったく同じ状況は試合ではないかもしれないけど、類似した場面でプレーを改善するようなアドバイスができるようにというのは、常に思っています。

 

 

南:自分がキーパーコーチになったとしたら、失点したり、ミスをしたのは本人が一番よくわかっているので、そこを指摘するのではなくて、どうすれば止められたかとか、防ぐ術を教えられるようになれるといいなと思います。

澤村:良いキーパーコーチになると思いますよ。

南:どうでしょう(笑)。ミスや失敗を後悔しても、取り返すことはできません。ミスから何を学んで成長するかが大切なわけで、そこを伝えてあげたいというのは、選手をやっていても思います。

澤村:ミスをしたときは、どう気持ちを整えている?

南:ミスをした時に取り返そうとしないようにしています。ミスをして、「取り返そう」と思っている時点で、取り返せないんです。だから、極力いつも通りやるように心がけています。クロスボールでミスをしたとして、「次のクロスボールは積極的に出てやろう」「絶対に成功させるぞ」と思うと、空回りの始まりです。フラットな気持ちでプレーして、ノーミスを狙う。それが大事だと思います。いいプレーしようと思って、いいプレーってできないんです。それができたら、みんないいプレーができるはずです(笑)

澤村:20年以上のキャリアがある人が言うと深いですね。

南:結局、練習でやってきたものしか、試合では出ません。気合を入れたからと言って、100の力が120にはならないんです。むしろ何も考えない方が、良いプレーができるような気がするんですよね。調子がいい時って、あまりいろんなことを考えずに、判断がパッパッと的確にできて、体も動くんです。

澤村:「ミスを取り返そう」という気持ちは湧いてくるものだけど、何を持ってミスを取り返すのかというと、答えがないんですよね。フォワードの場合、決定機でシュートミスをしてしまったとして、次のプレーでシュートを決めたら、ミスを取り返したことになります。でもゴールキーパーの場合、ミスを取り返すって何だろうと考えた時に、答えがない。そこに向かって行ってしまう選手が多いと思います。だから答えが出ずに悩み、マイナスのスパイラルにはまってしまう。

南:そうですね。

 

 

澤村:最後に、現役を長く続けることができている秘訣はなんだと思いますか?

南:監督が求めることを、100%できるようにやってきたことが、このキャリアにつながっていると思います。ビルドアップにしても、いまも取り組んでいます。日々少しずつしか良くなっていかないので、それを続けることが大事です。監督のリクエストに応えられる選手が良い選手であり、試合に出られると思っているので、それに適応できるように頑張るだけです。

澤村:これから新しいシーズンが始まりますね。今季も楽しみにプレーを見させてもらいます。同じSoccer Junkyファミリーとして頑張りましょう。

南:はい、頑張ります。ありがとうございました。

澤村:ありがとうございました。

 

編集後記:GK対談、お楽しみいただけましたでしょうか? 二人の話の中で、「Jリーグにいる外国人GK」の話題も出てきました。韓国や中国は自国のGKを育てるために、外国人GKを禁止しています。しかしJリーグは規制していないので、多くのクラブで外国人GKを起用しています。結果として日本人GK、とくに若手GKの出場機会が少なくなっている現状があります。ふたりともそこに危機感を抱いており、「韓国、中国のように、日本も規制すべきではないか」と話していました。「いまの日本のGKは、海外のGKから学ぶ時期ではありません。いかに実戦経験を積むか。日本の若いGKに必要なのはその部分だと思います」(澤村氏)